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「ハロー!マイミュージック」
コリーヌ・ブレ


母になって向かうピアノ

 ブレさんは昨年、「赤ちゃん・ザ・革命人」という本を出版した。自身の出産体験のルポルタージュと、それにまつわるエッセイがつづられている。
 フランス「リベラシオン」紙の特約記者として、日本のメディアでも鋭い弁舌を振るっていた彼女の顔に、確かに母親の余裕と優しさが漂ってきたように感じる。その風貌は、愛娘ロラちゃんを守る母の強さばかりか、人類の行く末を守ろうとする偉大な母性さえ湛えている。
「ロラが私の生活に革命を起こした」というのは、偽りのない実感なのだろう。
 港湾土木技師であった父親のもと、モロッコで生まれ、戦乱のアルジェリアで小学校時代を過ごす。
「夜ごと、いつ敵が殺しにやってくるかわからない恐怖があったんです」
 ある朝、学校に行ったら、校舎が爆破されて消えていた。その後フランスに戻り、一九七五年、たまたま手にした一枚の航空券に導かれるように日本へ。
「キリスト教の原罪意識を持つヨーロッパでは、人々は猜疑心を抱えていて、信頼関係を作っていくのがしんどいのね。日本は性善説の国なのか、ある意味でとても優しいところがある」
 そうしたなかにある日本の「あいまいさ」は、激動に疲れた魂を癒してくれた。だが、「革命の国」フランスの人らしく、日本にはレジスタンス(抵抗)の思想がないこと、報道ひとつとっても責任に裏打ちされた個人主義が脆弱なことを、ぴしゃりと指摘する。
「革命は、自分の内側から始まるもの。それがやがて、環境や社会をも変革していくのが正しいあり方と思う」
 民衆の善のエネルギーを社会悪に対するレジスタンスへ向かわせる賢善な装置が、日本には長く存在しなかった。
 著書のなかで彼女は、(出産によって)自分が人類の遠い過去から遠い未来への「ひとつの鎖」になれたと語る。ブレさんの生き方、人としてのモラルは、わずかにではあっても確実に、子どもを通して遠い未来へ変革を及ぼしていく。
「伝統というものは革命の連続によってできている」
 アンパンマンが大好きなロラちゃんがまだお腹にいるころから、彼女はピアノに向かい始めた。戦乱の少女時代を埋めるかのように、ピアノの豊かな音色に心を震わせる。
 革命とは「命を革める」と書く。言い換えれば、絶えざる挑戦によって、自分の幸福を自分で勝ち取る生き方の謂であろう。

コリーヌ・ブレ(フリージャーナリスト)
Corinne BRET●モロッコ生まれ。フランス国籍。パリ大学法学部卒業。1983年から91年まで、仏「リベラシオン」紙の特約記者。月刊誌「STUDIO VOICE」編集長ほか、幅広いメディアで活躍。著書に「水中出産」「創造の国・ジャポン」など。

 このエッセイは音楽関連の月刊誌に1993年の1年間連載されたもので、各分野の第一人者の横顔を、その人物にとっての「音楽」にからめて描いたものです。なお、肩書きとプロフィールは1993年当時のものです。


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